倫敦夢/たいにぃぼいす
 
まずい飯を食べていた
ウェストミンスター橋の端
ビッグ・ベンが見ている
今日はまだ
雨が降らない
ロンドンが霧と雨の街だっていうのは
あんがい真に受けていい
あとは
春だと思ったら冬だったり夏だったりも
する

橋の反対側から
爺さんがやって来て
もっとましな物を食べなさい

2ポンドくれた
2ポンドじゃましなものは食えないが
生粋のロンドンっ子だという爺さんは
街の話や天気の話
昔の話を聞かせてくれた
爺さんは必ず
同じ話を2回して
そんなだから
おれは今では爺さんよりも詳しくなっている

まずい飯を食べ終わっても
爺さんの話は終わらなかった
もうあんまり聞いていなくても
爺さんの話は終わらなかった
それでも
爺さんには帰る家と帰る時間があって
ここにはビッグ・ベンがある
ビッグ・ベンの鐘の音を何度聴いたか
おれは覚えちゃいないが
爺さんはそろそろ帰る時間だと告げて
“Ta Ta”(注:じゃあね)と言いながら振り返り
背中で手を振って橋の反対側に
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