漏声 ー夜の車窓ー/服部 剛
無関係を装い眠りに落ちる人々の懐から
浮かび上がる「ある独りの人」は
空気にとけた見えない姿で立ち
両腕を広げ
離れた心と心の谷間に
橋を架けようとしている
(病室の暗がりに
眠る患者の傍らに…ほの白い人影が)
月の光を集めた線路の上を
走る列車は今夜も
いくつもの密かな溜息を乗せ
あてのない闇の深みへ
夜空から 明け方へ
青空から 夕映えへ
果てなく織りなされる
空のタペストリーに包まれた
この世界で
幸せを探す羊等の
漏らす溜息を
すくう やわい 風の掌(てのひら)が
人知れず
車窓の外に吹いている
* 初出 詩学 ’04・2月号(投稿欄)
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