その墓には名前がなかった/soft_machine
 
のなみだを落ちるに任せ 拭いもせず
背いた私が 空腹に屈するまで
ただ、哀しく微笑んでいた

名前がなくても、刻まれた 人間

そのことばの向こうでは
本当の人間は、同じではなかった
人が定めた人間がそうであったに過ぎない
しかし人間は、新しいものでもない

たそがれは人間を孤独にするために
眠りの呪文を海風に織りあやつるが
ひっそりとした都会の銀火には
もう決して、届くことはない

そして真夜中の星々は遠ざかりながら
恐ろしく愚かでありおかしみを含んだ
生と死の変奏にいつまでも付き合う
好ましい種族ではある人間が
もっと孤独であれば
まだ明かされる秘密があるのにと
歌をうたうのだが

私はひかりの中に
あなたの名前を刻み込むだけで
その傷口から溢れ出る哀しみが
どれほど語ることばで私を洗い流そうとも
なんとそれを呼んだのか、もう、忘れてしまった

ただ、この身を澄ますだけしかせず

 愛、というものだった事を





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