距離/
 

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その目を見ることができないまま
誰かはいつまでも誰かだった

眠らない静けさの中を
床の冷たさが伝う
空気の振動が伝う
何もかも伝わってしまう

半分の体で壁際に転がり
天井を見上げるこの目に
たくさんの手のひらが、見える


+


なんだか笑ってしまった
それは定期的に起こる出来事で
その度に記憶を手繰り寄せることになる

やがてはどこかに落下して
張りつめた音を立てる
誰かの笑い声、と
滲むような朝

その距離が
今 はじまりのように、遠い


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