小詩集「言い訳」(01-10)/たもつ
01
潜水艦が勝手口から出航する
数名の水夫と
グランドピアノを一台乗せて
裏面にへのへのもへじが書かれた広告は
窓を開ければ
風に飛ぶだろう
02
電話会社から届いた明細を
女は男と見ている
コーヒーカップの中には
誰も訪れることのない
見世物小屋が建っている
03
役所の戸籍係が
トンボを一匹捕まえた
指先はいつものように湿っている
他に特記することもなく
その日は
掌に人という字を書いて終わった
04
緑地帯の雑草は
ある日きれいに刈られていた
子どもたちは走り
そのために置かれた砂時計は
まだ時を刻んでいる
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)