雨の効用/松本 卓也
飛沫(しぶき)を浴びた眼鏡を外し
まだ見えている右目を瞑(つむ)り
ほぼ見えてない左目を顰(しか)め
道行く人にはどう見えるのか
そんな愚問を過ぎらせながら
信号がまるで万華鏡のように
紫とも橙とも言える光を放つ
耳元にクラクションが響き
背中に冷たい汗が伝った
灰色の隙間から空が零れ
瞬く間に差し込む黄色と赤
傘は持っているけれど
差すのが何だか勿体無い
水溜りが跳ねる混凝土
肩に圧し掛かる影色の雫
瞼に弾かれ睫に積もり
ほんの少しの間だけ
現実を忘れる処方箋
効用は瞳の前に架かる虹
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