愛野讃歌/佐々宝砂
うちの最寄り駅は
大笑いなことに愛野というのだ
駅にほどちかい工場の連中は昔バンドを組んでいて
そのバンドの名は
大笑いなことにラブフィールドといったのだ
そいでもってうちの近所の
つまり駅近くの道っぱたには
「君とぼくルール守って愛の道」
という標語の立て看があるのだった
もうここまでいくと
笑いを通り越して頬が痙攣しはじめるわたくしなのであるが
それでもわたくしとあなたが出会ったのは
この駅周辺で
駅にほどちかい工場のまわりは
散り落ちた桜でほのしろく染まり
目を近づけて見りゃ白くはなくて薄汚いが
それでも春の雨に濡れてひかる桜葉に
あなたとわたくしの思い出な
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