タロは吠えます/川口 掌
歌島さん宅の庭先で
タロが吠えます
夕暮れ時
表を飛び交う蝙蝠を一心に見つめ
かれこれ
吠え始めてから十分は経ったでしょうか
たまりかね
お向かいの河上さんが席を立ちます
その頃に歌島さんが
ご馳走を抱え玄関から出て来ます
ご馳走を前に
タロは少し小首をかしげ
それでも
目の前に置かれた物を平らげます
お腹一杯になって一服した頃
歌島さんは
タロのお散歩セットを手に現れます
黄昏時の町を
歌島さんと
お決まりのコースを徘徊し
いつもの様に鎖に繋がれます
そうやって繰り返し
毎日続く平穏な日々が暮れていきます
お散歩から
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