ベロ出しチョンマに投げキスを/佐々宝砂
 
ンマの顔自体は、かなりかっこわるいへんてこなものなんだろう。だけど、必ずしも人を鼓舞しない、必ずしも人を感動させない、ほんとならただのお笑いに過ぎないその顔は、この危機的最終場面においては、「笑い」というものすごく強い武器となって槍という権力に抵抗する。


監禁されていた三人の中に、ひとりでも、ベロ出しチョンマのようなすてきなドアホがいたならば、彼等の監禁生活は、ほんのわずかでも潤ったのではないかと思う。そして、もし私がそんな状況に陥ってしまったなら、せめてはその「ほんのわずか」なことをなしうる詩人でありたいと思う。人を悲しませず、苦しませず、心を解放し、思い切り笑えるような、そんな言葉を紡ぎ出せる詩人になりたいと願う。かなり大それた願いのように思うけれども。「ベロ出しチョンマ」の物語は、どんな恐ろしい事態に陥ったときでも、詩人は何かをなせるのだという物語であるようにも、私は思うのだ。

私の理想、ベロ出しチョンマに、投げキスを。
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