帰り道/長谷伸太
 
竹薮に囲まれて
さらさらと
黄緑と白
雨上がりの光
賑やかな静けさの中
下り坂を行くと
後ろから
夕方と夜のあいだのような
ゆらゆらと妖しい紫色の声が


林檎を小さな太陽だなんて
つまらない事を言うのはやめて

もし林檎畑の中に私の手が生えたら
あなた大事に育ててね

あなたに真っ赤な林檎
好きなだけもぎ取ってあげる

空を無限の鍵盤にして
永遠の音楽を奏でるわ

あなたが渡せなかった手紙を
雲の上まで届けてあげる

地球からはみ出したあなたを
力いっぱい抱きしめてあげる

あなたにいつも光があたるように
太陽だってもぎとってくるわ

だから林檎畑に私の手が生えたら
あなた大事に育ててね

林檎畑に私の手が生えたら
あなた大事に育ててね


うしろをふり返ると
わかっていたけれど
真昼の白い光
今来た道に竹が揺れているだけで


馬鹿ねあなた
ぜんぶ嘘よ



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