不揃いカフカ/なかがわひろか
カフカが並んだ本棚をなぞりながら
一冊だけ足りないわねと
君は言った
僕はどの本が足りないのか知りたかったけれど
君の興味はもう既に他の物に移っていて
きっと尋ねても無駄なんだろう
君は長い髪を垂らしながら
一冊一冊丁寧に本の背をなぞる
まるで僕の思想を確認するかのようで
少しこそばがゆい
全部の本をなぞり終わった後に
君は黙ってこっちを振り返って
そろそろ帰ると言った
僕はもう少し君を引き留めようと
君の好きな作家や音楽や絵の話をしようとしたけれど
僕は君の好きな物はなんにも知らなかったから
黙って頷くしかなかった
君はまるで続きのように
僕の鼻をなぞって
ふふ、と笑って
部屋を出て行く
『不揃いカフカ
不揃いカフカ
お前は何が足りないのか』
僕はまだ知らない
(「不揃いカフカ」)
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