墨/A道化
 


墨の ように 
雨が 落ちて


朝の駅に向かうひとびとの
ぼんやり
傘までが 喪に服している
今日失うものの分まで 
悼む顔つきの 薄い朝


雨を 追いすぎて 私は
少し 目を伏せすぎて
わざとらしく 時や場所などを忘れたかった
出涸らした春が 瞼に座り
そっと 促してくれた


やさしいんだから
くるしいのに
また ひどく やさしいのだから
目を 伏せて
目を 伏せて


雨に混じり 乾いた小さなものが
落ち て 落ち て 落ち て
落ちる 音
足音みたいだ と 思ったら
足音だった から


嗚呼 また 目を伏せて
墨のように
雨が落ちて
本当に
墨に なって


2003.4.29.
昨年の昨日かいた詩です
戻る   Point(4)