風を釣る/角田寿星
 

囲碁も碁盤もまだ発明されてなかった
それどころか
クヌギもセキレイも
木挽の小屋から立ち昇る炊煙さえもまだ
名札を失くした卵のように
眠っていたんだ

ふふん ふんふん ふん ふふん
ふふん ふんふん ふん ふふん

世界が少しづつ鼻唄で充たされていく

ぼくはこれから生まれてくるだろう
ろくでもないものどもについて思いを馳せる
ぼくは笑う
ぼくの意思にまるで関係も頓着もなく
生まれてくるだろう ろくでもない
愛おしくも騒がしいものどもを
ぼくは待ってる
ぼくは目を閉じたままでいようと思う
釣り針の尖 きらりと何かが光ったけど
それはきっと気のせいなんだろう
草原のロウソクに
いっせいに灯りが点ったけど
それもきっと風のいたずらなんだろう

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