萩原朔太郎を喚び出す詩/岡部淳太郎
回る
火のついた犬のように
走りながら
回って今日一日の
憂愁を追う
今日も丹沢の山は見事に鋭角で
背後の空からくっきりと浮かび上がっている
おそらく上州前橋から見る山なみと
そう変ることのない風景だろう
萩原よ
朔太郎よ
あなたを嚆矢とする悩ましい病が
ここ現代日本の空の下で
日々あらたな患者をつくりだしていることを
知っているか
それらのあたらしい病気持ちは
夜になると蛤のように腐って
べちょべちょになり
あなたから受け継いだ遺伝性の症状に苦しんで
のをあある とをあある やわあ
などと悲しげに吠えているのだ
群衆の中を求めて歩いても
いつまでも返し
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