NO MOON/10010
今夜も月が美しい。だが、今夜かどうかを決めるのはまさに月の運行とそれを見守り暦を作成する天文博士なのだから、月が美しいか否かに、夜が今夜であるかもかかっているのだ。予言は正確に行われるが、月の綿密な計画の下では、予言するということもまた予言されざるを得ないので、予言は必然的に、おそらくは今夜のうちにも歳差する誤差を産むことになる。その修正のために、渾天儀にはどうしても小さく回転する無数の周転円が必要とされ、しだいに元の円全体を周転円が埋め尽くすことになる。その姿は、その材質がMATERIAという語の本来の意味すなわち「材木」であるという点を除けば、すべてのMATERIAから成る天と何ら変わるところ
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