消音現象/楢山孝介
 
の目にも気付かれたくはない

それでも、こちらを訝るように見る目がある
私の名前を呼んでくる者もいる
古い渾名を搾り出して呼びかけて来る者さえいる
何事かを憤りながら糾弾してくる者もいる
それは昔の私に向けられた言葉だ
危なっかしくて弱くて少し頭が足りなくて
それでいて純粋だった頃の私に向けられた言葉だ
薄汚れて醜い今の私とはかけ離れた言葉だ
私は気付かない振りをする
私は何も聞こえない振りをする
私はそこにいない振りをする

数年振りに故郷の町を歩いた
故郷の町並みはすっかり変わってしまっていて
見知らぬ建物が林立している
聞いたことのない言葉が飛び交っている
次第に私は歩く速度を速める
私の耳にはどんな音も届かなくなる
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