世界のブローチ/瓜田タカヤ
 
世界のブローチ

世界が放つ冷光に吹き出る春の吐息
肩車の子は宇宙に近づいて気圧を拭う
あたかも十年後には
食卓のゴムの木と同じ高さで発育する命実のように笑い
明滅を繰り返す盛り場の暗黒を養殖する

空飛ぶ円盤は誰が何のために見たがるのか
遠い真空の彼方から空気に震いつきたくて現るのか
何かの重大発表を地球の生物に告白するために不可思議な言葉を弄ぶのか
全身がしびれる新しいダンスの解釈を
西日暮里のダンス愛好会に伝えるためにか

幼児はすぐに空を覗き見
つきは片眼
濁ったハエの裸眼のように
世界を重い息づかいで照らす

夜中に踏みつぶされた昆虫の温度は
飲み過ぎた後の吐瀉物と同じだ

皮膚を剥がれた人間の匂いは
市場に並ぶ知らないフルーツと同じだ

どこにもそんなに意味はない
空飛ぶ円盤の全ては
君の
ブローチの
デザインのためだけに
飛んでいる
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