水の記憶/ピクルス
 
しとしとと
しとしととと、
猫背のまま水空に浮かぼうとするのですが
名前を間違えられる度に傾く月の速度で潜ります

湛えている水の冷たさ
その畔には涼しい石が侘びしく幾つもありまして
濡れた犬ばかりが座っております
笑顔で包みを開けた日を忘れられない
そんな犬ばかりが
人目を避けながら汚れた四肢を懸命に洗います

翼あるもの
それから、それを願うもの
返事を待てずに手紙を書いては指折り数え
足りない水を欲しいとも言わずに
ゆっくりと車輪の滑る音を聞いているのでしょう
つれてって、つれてって
つれてゆくな、つれてゆくな
渡る水には、ひとつとして橋はありませんが
さみしく眼を瞑った掌には
讃美歌のような切符が
燃え尽きる前にと
来るはずのない汽車の音に耳を澄ませてる
とうに水は冷たくありませんとも、ええ
空には雪のように渡る
そんな白い鳥達が今、
いっせいに鳴きました


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