【小説】お百度参り/なかがわひろか
 


一瞬で世界が変わった。男は、当時に生きた仲間たちは、もう戦うことはなかった。
男の仲間たちは、戦場にたどり着く前に、どこか知らない国の上空で消息を絶った。
国のために散った命は、誰にも見取られること無く、肉片と化し知らぬ国の土に還った。

男は涙を流していることに気づく。昨日何をしたかも思い出せないのに、何十年も昔の仲間の後ろ姿は今も鮮明に覚えている。

女の駆ける姿を見て、男は涙を流した。

願い。

祈り。

そんなものがあの頃にあったのだろうか。
生きようとすることは、悪であった。
生き残った自分は、国を裏切ったと同じ扱いをされてもおかしくなかった。

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