【小説】お百度参り/なかがわひろか
のも悪くない。
朝食を終えて、いつもの散歩道、何故か足がこの神社に向いた。
いつもと違う道。
鳥居をくぐったところで、女の姿が見えた。
女の後ろ姿を見ながら、数十年前の光景が脳を過ぎった。
戦争。
それは何のための戦いだったか。
それを知ることは、国を裏切ることに等しかったあの時代。
男は戦場に向かおうとしていた。
戦場。
戦う場所。
しかし男にとってそこは戦いの場所ではなかった。
死ぬための戦い。
最後の願い。
仲間と最後の別れを過ごした夜、男は怖くて、独り泣いた。
先に行った仲間は、皆死んだ。
戦争は男が出発する直前に、あっけなく終わりを迎えた。
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