流転する、すべての/望月 ゆき
夕暮れ時になると決まってわたしを呼ぶあなたの声が
今もなお耳のおくに反響して
とおくへ行こうとするわたしの記憶はいつまでも
剥がれ落ちるすべを知らないまま
配線に足をとられてここにいます
羊水を、伝う、振動、
低く、くぐもった、音、
かさぶたをはがしてはいけないと教えたのはあなたで
それを教えなかったのはわたしでした
終わりのないあそびはあなたが
まだ微粒子だった頃から続いていて
土管のなかにかくれたままのわたしもいつしか
微粒子となり見知らぬだれかの羊水を漂っています
不安定なものばかり信じてしまう
と言って泣いたあなたは
幼稚な約束と、それと同じだけの嘘をわたしに食べ与え
あなたに似た深爪の手をつくり終えたそのあとで
長い忘却の日々へと透きとおっていくのでしょう
たしかなことがあるとしたら、
お母さん、あなたも
あなたもわたしが産んだのです
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