百年と女/楢山孝介
 
はいろいろなものになり
十年ごとに同じ女と出会ってきた
そして今、女はわたしの胸に飛び込んできた
「さっき死んでしまいましたので」と女は言った
「それはそれは」とわたしは言った
「少し寂しくなるな」とわたしは言った
「あんまり気にしないくせに」と女は言った
それはそれで本当だった
「いや、本当に寂しくなるよ」
それもそれで本当だった
「カニ?」と女は言った
「カニじゃない!」とわたしは言った
それからまもなく女は消えてなくなった

わたしも女と一緒に消えてなくなろうかな、と一瞬思ったが
残念なことにそれは無理な相談だった
わたしは何ものかになり続けて
何ごとかをやり続けるしかなかった
わたしはいつまでもいつまでも
ただただ在り続けることしか出来ないので

別にカニだと認めても良かったんじゃないか
とわたしは思い始めた
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