バイロケーション/松本 卓也
そこで見られた存在は
もしかしたら僕かもしれない
今部屋で焼酎を飲む存在は
僕でないかも知れない
唐突な疑問は確信めいていた
既に遠く闇に潜む影は
次第に理由すら覆い隠していく
意味とか意義とかの裏腹の向こうで
朽ちていく想いが一つ二つ在って
もう随分と前に亡くしているのだから
今更思い巡らせる事さえないのに
呻いた言葉は日本語にさえならない
まるで獣が檻の中で我が身を嘆くよう
響かせている意識さえ無いと言うのに
時として心の向こう側に追いやった
幼ささえ垣間見えるようで
公園の奥から
学校の門から
廃屋の彼方から
山の天辺から
心の奥から
瞳の先から
空の向こうから
過去の一点から
問いかけているのはいつだって後悔
背中を押すのは常に迷いの証
情けなく頭を垂れる虚像が
いつもより大きく見える
意味などないのに
理由などないのに
戻る 編 削 Point(1)