馬鹿な風/楢山孝介
 
女は去っていったが
僕は馬鹿なので歩き方を忘れていて
追いかけることが出来なかった

そうしてしばらくして僕はまた
馬鹿な死体になった

「冗談はやめて」と言ってくれる人がいないので
僕はずっとそのままでいるしかなくて
馬鹿な骨になった
馬鹿な塵になった
馬鹿な風になった

風になれたので女を探しに行こうと思ったが
馬鹿なので女の顔を忘れていた
女とは二度と会えなかった
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