月のように川面のように/九谷夏紀
 

川面に浮かべた林檎を手にすくい
また沈めながら
「きれいだ」
「きれいだ」
それだけを呟いて
繰り返し林檎を見つめるあなたは
この月の光と照らし出された波を
どう眺めるのでしょう
私はただ
見とれているだけで
あなたは

いつも帰るのは
何も見えない
くらいくらい海のほとり
境界線はなくて
空も海も
雲も波も
砂も風も
草木も私も
すべてが一緒の黒

月は黒を浮き立たせる
同じ黒を
濃く淡く
影をつくって
すべてをちがう黒にするから

私はあの月になりたい
朧でも
離れていても
くらい海を照らして
ざわつく波に光をあてて
今宵のようにおおきくて
まあるい月になりたい

太陽がいる間はあの川面となって
日の光を集めたら
林檎をうつくしく
ひかりかがやかせるように
ただよわせる

たとえば月はわたし
たとえば海があなた
たとえば林檎が詩
たとえば川面がわたし



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