アルマジロに花束を/ロカニクス
 
地図の上に鉛筆を立てて
転がった位置まで歩いてみると
道路の真ん中にアルマジロがいた

それから早幾年月
アルマジロの実の弟
ジローに出会った
普通の人間の形をしている
折り目正しくスーツを着ている
あのときは、兄がお世話になりました
と深々とお辞儀をする
兄のアルマジロは道端を行く人を見ること
弟のジローはその人たちにお礼を伝えることを
日々の糧にしているらしい
私は思わず最愛の人に贈るはずだった花束を
これ、お兄さんに
と差し出していた

そうして更に年月は流れ去り
結局私以外に
あのアルマジロに出会った人と
あのジローにお礼を言われた人の話を
聞くことは無かった
今となっては花束も道程も
用意することはできないけれど
心の中のものを思いっきり束ねて
そっともう一度捧げよう

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