さかな/芳賀梨花子
お台所で
平目は五枚に下ろすのよって
ちょっと得意げにしているわたしも
豆鯵は指でおろすの
ほら、こういうふうにって
えらのところに親指をねじ込んで
躊躇なく腸(はらわた)をひねくりだす
でも ちっとも残酷だなんて思わない
そんな運命が待っている豆鰺の大群を目の前にして
平然と大鍋にたぎった油を用意していている
こんなときが
しあわせってこういうことなのかな、なんて
聞かずにいられる唯一の時だったりして
いちいち確認しなくてはいけないってことは
どういうことなのか
傍らでお魚の行く末を案じている息子に聞くわけにもいかず
そうだよ、今夜の食卓はお魚の命と引き換え
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