春の首筋/蒸発王
春になると
見る夢がある
『春の首筋』
女が立っている
うりざね顔の整った貌をしてる
しかし
一番美しいのは
女の首だった
白百合がうつむくような
清楚と無実の匂いのする
美しい
白い首筋
気がつくと
私はカミソリを持っていて
女は
首をのけ反らせ
私に首筋を捧げていた
祈るように伏せられた
女の睫毛は
花の雄しべを思わせ
花粉のかわりに
細かな涙が睫毛を飾っていた
私は捧げられた首筋を
カミソリで切り裂き
ばっくりと開いた切り口からは
一年間熟したよ
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