連作「歌う川」より その4/岡部淳太郎
ってのもうひとつの
旅
時が繰り返されるように
旅もまた 果てしなく繰り返される
七
祈る人の物語は
ごく普通の物語である
だが彼はそれを誰にも話さない
話す必要などない
ただ自らの岩石の洞窟の中に
閉じこめておくだけで良い
祈る人は 自分がいつ生まれたのかさえもわからない
だが自分の誕生の日を特定するのは
宇宙の誕生の瞬間を特定するようなものだと
彼は思っている
確かに彼は個体である多くの人類に対して
気体のような存在だったが
彼は異常ではない
少なくとも 宇宙人としては
彼は生きることよりも
歌うことを
祈ることを 優先する
すべての
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