連作「歌う川」より その4/岡部淳太郎
 
宇宙の「イシ」が
地球の周回軌道に乗ろうとしている そのさなかにも
川は海へとそそぎ
海は波の鼓動を
繰り返し
繰り返している

そのさなかにも 港では
老人がただ歩き回り
祈る人はただ見つづけている
祈る人の哲学も信仰も
老人の諦念も
そして海の暴力と優しささえも
ひとつに溶けて
潮風の中 ひとかたまりのにおいになって
港を漂っている
  河口の港
川は 血管
海は 心臓
老人はやがて死に
祈る人は生き残るだろう
そして彼の祈りは人類の
新しい歌となって
この港から世界へ向かって
出航するだろう
その瞬間の前の
ひとときの
静寂

船が
船が溯るためにやってくる




(一九九七〜一九九八年)
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