連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
 

――僕たちにも教えてよ。
だが家の中では
ちょうど祈る人の歌の旋律が
最大の高揚を示した時
その歌声に合わせて
少女のような老婆が激しく嘔吐し
老人のような若者が熱病で倒れていた

新たな漂流が始まろうとしていた
祈る人が十二人の子供たちを引き連れて
家の中に入ると
家長の妻は際限なく嘔吐を繰り返し
家長はそのかたわらで
熱にうなされていた
――お父さんとお母さん、もうすぐ死ぬんだ。
十二人のうちのひとりが
ふいにつぶやくと同時に
家長とその妻は事切れた
家長の妻の枕元から床に広がる
吐瀉物には
魚の鱗が混じっており
家長の熱で赤く変色した額から流れた
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