*春幻*/ちと
 
淡紅が揺れるから心が騒ぐ

フェンス越しの桜並木
隙間から覗くと学び舎が重なって
霞む
春の魔法にかかった

お別れはずいぶん昔に済ませたのに
世界が淡紅一色に染まる頃
すれ違った昇降口が蘇る

交わすことのなかった「さよなら」

卯月の風は柔らかい
記憶をくすぐるから少し切ないけれど

好き

忘れられない日々をどうか消さないでいて
十年後も二十年後も染まって揺れて

今年も

胸が軋む
どこか遠くで「さよなら」が響く
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