やらせろよ 1分/猫のひたい撫でるたま子
―AM6時、人の少ない井の頭線の車内―
ガラの悪そうな細身の男がシルバーの携帯で喋っている。
靴下は赤と青のりんご模様。
茶色の便所サンダルを履き、
黒のパリッとしたスーツ、ハンチングを被っている。
だから〜ロマンチックなんていらねーよ
(優しい口調で)
はいはい、そういうささやかな秘密もいらないんだよ?
全貌を早いとこ耳打ちしてくれよ
わかるか?俺はいまパズルのピースの上に立っているんだ
あんたが完成させてくれ
いっつもそうだオマエは。途中で諦めないでくれ
音楽がうるせーよ、ノイズが混じるから切ってくれ
( 向かいの女をまっすぐに
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)