「あちらこちらで」/プテラノドン
 
ブルに放り上げられた、
 ピアノのボリュームをあげるための片足。

町は静かだった。真夜中だから。
錆付いた老人の足元では、観光客が残していった
異国のコインが見ようによっては―財宝や財産という
意味ではなく、それさえもが芸術作品の一部として、
一時も眠らずに輝いている。僕はそのコインのなかの、
いくつかの国を知っていた。知っていると言っても、
挨拶を交わせる程度の知識だけだが、挨拶なくして
文明は始まらない。どんなに血生臭い文明でも。
喜ばしい文明もしかり。そして、これまで
或いはこれからも、コインを盗もうとする者は
一人もいなかったけれど僕もまた、想像力の一点では

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