私の屍を越えていけ/野火 後里
無数に転がる背中のひとつ覗きこんだ
浮き出る黒いあしがた
誰かが一度
踏み潰したのだろうね
いや
踏み越えていったのかな
ああ
そうだったらいいな
「制止も聞かず走っていった」
なんてそんなこと
あるわけないじゃない
あなたの声なのに
拒み続ける世界をよそに
受け入れる者たちが生まれ出す
「止められない」
なんてそんなこと
考えつくこともないわ
「逃げられない」
それはまあ
よく思うことだけど
時間は回送を始めて
私はまたも乗り過ごした
無数に連なる山並みのひとつ覗きこんだ
沈み込む本日
ボンボヤージュ!
今日も昨日もまたあした
ね、だから
だからいつかさ
私の屍を越えていってね
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