一日のかけら/草野春心
 


  新しい服を買った
  いつものタバコを買った
  二か月分の定期券を買った
  気が狂うほど普段通りの
  おだやかな昨日だった



  僕の部屋の中には
  開けない日記がある
  白い天井と堅く冷たい床がある
  昨日買った色々なものが
  名前を失くして横たわっている
  今日という一日が
  言葉もなく僕の顔をのぞきこむ



  必要なものは何一つ欠けていない
  春物のセーターがあって
  いつものラッキーストライク
  桃色の定期券もあって
  失われることのない自分もあって
  必要なものは何一つ欠けていない



  隣で笑っていた顔は
  いつまでもはしゃいでいた声は
  もうどこにも無い
  おだやかな今日だった
  僕の部屋の中には
  もうなんにも無いよ
  たくさんの嘘と ただ一つの本当のこと
  それだけしか無いんだよ


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