摂氏36℃/済谷川蛍
 
 夏――。
 とある賃貸マンションの一室に若者が二人。
 その一人、もとい彼は、ファミコンのスーパーマリオ3をやっている。
 もう一人、もとい彼女は、彼の横であぐらをかき、アイスを食っている。
 
 彼女が、いつもの間延びした調子で言った。
 「太陽ってさー、すごいよねー」
 「なんでー?」
 「あんな遠くにあるのに、私のアイス溶かしてる」
 
 彼はしばらくゲームに集中し、ふと言った。
 「おまえ変わってんね」

 彼女はいつもの間延びした調子に若干の素気無さを込めて言った。
 「あんたに言われたくないヨ」

 クーラーが程よく効いた部屋にしばらく静寂が生まれた。
 テレビ画面では、マリオが宝船を漁っている。
 突然、我慢しきれなかったように彼がブッと吹いた。
 そして大笑いして、彼女の太ももに頭を乗せた。
 
 二人は視線を合わせた。
 二人は心地よい温もりに包まれた。
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