故郷における影/こしごえ
。
(見つめかえす瞳の呼吸が
しめり気をおびて遠くへ花をそえた
引きかえすことのない孤独なロンド)眩暈の
空に回旋塔の葬列
果て
見失わぬように
つかんでいたものは
最初から無かった
まだ見ぬ地
(ちいさなしろい手が
わたくしの黒く透けた影を引きのばし
冬の夜の初夢は
結晶して月光に青白く戦ぐ))しかし
ててちゃんこっちこっちぼぉんぼぉ〜ん、と
失われた時間はこぢんまりとして
いっこの精神に降りつもっていく
凍える歴史を黒髪に編みこみ
亡霊の花嫁となる
新婚旅行には紫の階調
異国へは(一度きりで充分しかし
ててちゃんこっちこっちぼぉんぼぉ〜ん
硝子の時計が影を刻みつつ
流れるような光沢の欠落が
視神経を逆流して像を結んでしまう
これ以上の行方を
忘れられぬということがあろうか
遠く遠いのだ
ふるさとの思い出は
お墓までもっていこう
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