故郷における影/こしごえ
 
かえるところがあるのならば、それでいい)


   お葬式

カラスが黒く はばたいて
おひとりですか、と
月へ笑う
いいえ
あたしは迷子です、と
黒く燃える
火へ手紙を焼べた
煙が空へのぼるとき
お墓でつぶやく
みなしごの涙

((忘れられぬ風光の記憶に立つと
まちの喧騒は静寂に分解されて
わたくしの影が流例と交信を始める)もし
もし
生まれてこなかったならば
わたくしはここにはいられない
雲を仰ぐ


   やかん

ちちりちん。
もんくもいわず
湯をわかす
かしこまりました、と
あついいぶくろでねんぶつをとなえる
ちちりちん。
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