象殺/はじめ
 
ーキャップが口まで流れてきて 黒い唾を床に吐いた 道化師は顔を上げ 深く溜め息をついて 涙が零れるのを我慢した
 左向こうの全身鏡に道化師は顔を映した 酷い顔だな… と心の中で呟いた もうすぐ出番だと言うことに気付き 慌てて顔を洗った ふと顔を上げて鏡を見て端正な顔つきを見ると余計に悲しくなった そしてメーキャップを造り直した
 会場は観客で満杯だった 裏口から道化師はそれを見ると性分なのか だんだん元気が湧いてきた しかし道化師は悲しみの淵に飲み込まれたままだった
 舞台裏にはあの好きな女性を殺した象が鼻でバナナを取って美味しそうに食べているのが見える その光景を見ると象に殺意を覚えた 道
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