ひと夏/千月 話子
 
しい と



「お帰り ありす」と あんりは言った
それから何も言わなくなって
美しい子供の姿をして 彼は笑う 
輝く金の穂をさわさわと撫で
あんりの子供の手から
大きな太陽の温もりを移し移して
悲しいから泣くの?優しいから泣くの?
青い目から海は溢れて
金色の目が それを乾かして
2人して窓辺に座り 空を見ていた

 るるる とありすが歌うから
 ららら とあんりも重ねて歌う
 白い小鳥の歌を 作って



ぼくは 遠い木陰から
どうしてか 静かに静かに
窓辺を 見ていた
2人して居なくなるだろう明日を思って

木の枝を螺旋に動くリスの口元から
くるくる くるくる 木の実が落ちて
ぼくは 小動物の骨を拾って
沢山のお墓を作って泣くのだろうか
誰に怒られてもいい明日
羽枕を引き裂いて 何度も拾って
飛ばして 踊ろう 僕は小鳥
お墓の上で踊りながら泣くのだろうか

ねえ 森よ
あの子達は何処へ(飛んで)行ったんだろう
黒髪に 風が通り
ぼくは思う 何となく悲しい と






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