彼の、パキーネ、異形の詩歴書番外/佐々宝砂
 
眉村卓の古い短編小説に「わがパキーネ」というのがある。私が最初にそれを読んだのは1982年。十四歳の夏だった。ヒマでたまらない十四歳の夏休み。自分自身の汗の臭いと、隣で飼ってる牛の悪臭と、それらをぐるぐるかきまぜる扇風機の音。なまぬるくなった麦茶。そんな夏、私は自分の家の押し入れに1960年代のSFマガジンの山を発見した。古い紙の匂いが私の夏に混じった。そのSFマガジンに、「わがパキーネ」が載っていた。私は、私が生まれる前に発行された雑誌で「わがパキーネ」を読んだのだ。

最初に「わがパキーネ」を読んだとき、私は何を思ったのだろう。思い出せるような、思い出せないような、奇妙な感じがする。その年
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