唇に雨粒/蒼木りん
 

話すことなんか
何もない
誰とも
世界が違うから

違うと
そうだを
確かめるための密会になる
天秤はいつも揺れて
傾いたほうに
今はいるから
寂しくなんかないし
楽しくもない

モクレンに
無数の白い鳥がとまる
女の手のような花

隣の芝桜を
羨まない
私も手に入れたから

誰も知らない
私がいた
それだけでいい

これでも
年寄りでも
子どもでもないから

黒い背広は急ぎ足

唇に雨粒


戻る   Point(9)