印象 : 1/安部行人
 
段よりも人が多く、わたしは店の中心のテーブルへ案内された。わたしは壁際の方が好きだった――周りじゅうから見られているような気分で食事をしたいとはなかなか思えない。
 しかし店の都合とあってはやむを得ず、わたしは皿に向かいながら、どこということはなしに店の中を眺めていた。

 その男は隅のテーブルで食事をとっていた。なにかの雑誌に目をやりながら、手だけがゆっくりとした機械のように動いていた。どこか無作法に見えながら、その実ほとんど音を立てていなかった。
 ほかの客たちと変わるところのない、どこの通りや仕事場でも見かけるような人物だった。だがわたしはなぜか興味を惹かれ、ビールや煙草のかたわら、
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