無名の歌/岡部淳太郎
ない
ということは
名前がないということ
歌のように
人も物も土地も
それらのあやふやな記憶が
思い出せない
ということの中でゆっくりと消えてゆく
どこかで聴いたことのある歌
その旋律を 君は歌っていたのだが
歌の名前は思い出せなくても
君の名前も
君のことも
憶えている
いつでもはっきり
痛みのように
思い出すことが出来るのだが
思い出せない
ということは
君のすべてを忘れてしまうということ
そんなことには耐えられないから
思い出す
君のことを
いつでも好きな時に
思い出すことにしているのだが
それでも
君は忘れ去られるだろう
人
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