夢/たかぼ
 
私はまだ一度も夢を見たことがない。

いや正確には見ているのかもしれないが憶えていないのだ。何かを見たかもしれないという程度の感覚も一度も味わったことがない。学童になり友人達が夢の話をするのを聞くようになってからは自分だけが取り残されたようで寂しくなった。初めの頃は何の話なのか全く理解すらできなかった。私にとって眠りとは完全な空になるようなものだったからだ。私にとって夢とは、例えるなら生来盲目の人の見る風景、聾の人の聞く音楽のようなものかもしれない。そんな私の事情を知った親はたいへん不安に思い、私を連れて病院巡りをすることになる。そして或る精神科病院を受診したとき一つの事実が明らかになった。私
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