ポケット/霜天
気がつけばすべてがあの日に返っている
ポケットに突っ込んだままの右手を
思い出して引き抜くと
零れ落ちていく ぽろぽろと
ありふれた困難とか
いつまでも続く分かれ道とか
乗り切るたびに少しずつ削られて
僕は少しずつ小さくなる
それでも終わりなんかなくて
押し寄せる波みたいに
音を立てて覆い被さってくるから
わずかに残ったものはないものかと
ポケットをひっくり返せば
あの日が零れ落ちていく ぽろぽろと
初めて高く見下ろした
木の天辺からの景色
振り返るとあの景色がいつもそこにある
気がつけばあの日の目になっている
零れたものを拾い集めて突っ込んで
ポケットの中で確かめる
残っているものを はっきりと
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