妄想の追懐/はじめ
 
 或る街のある家の中からの風景
 僕は泣きそうになる
 この広い街には競馬場は無い
 歪んで見える風景
 競馬場があったはずなのに無い
 君を思い出す
 「君」という言葉だけが僕の中に残ってしまっている
 その言葉の響きだけで泣きそうになってしまう
 本当は君の顔も知っている
 この世界のものとは思えないこの詩
 僕は現実でも夢でもない世界に来てしまっている
 何処か分からないが心の中に近い世界で君の手を握った
 君の顔を上手く思い出せない
 君は二つの顔を持っている
 僕は二つの顔とも愛した
 別の女性と別の女性と別の女性と…君は同化した
 僕は皆愛して 混乱した
 破滅した
 長い年月の後 僕の混乱はかなり解け 二つの顔を持つ君だけを見つめることができるようになった
 冷たい風が僕の心を優しく撫でる
 君もこの家からの風景ももういないしない
 夏の独特の匂いがする
僕はここで世界が終わるのを待っている
 僕の後ろへ過ぎ去っていく全て
 心の中に瞼を閉じた時の暖かい暗闇があるのを感じる
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