きれいな天気/なかがわひろか
いい天気だね
一人の紳士が尋ねます
低気圧が男の足にすがりつく愛人のように
いつまでも停滞している空を見ながら
紳士が言います
私にも
なんだい？
私にも、今日はきれいな天気に見える
きれいな天気
紳士は繰り返します
いい表現だ
きれいな天気
紳士はまた繰り返します
雨は地球の重力と戦いながら
いまやいまやと落ちてきそうになっています
きれいな天気ですね
ああ、そうだね
私と紳士はにっこりと微笑を返します
雨が、一粒、落ちてきました
（「きれいな天気」）
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