睦言/六崎杏介
 
「君は黒猫が好きだったね。」
「一人の女の子の話なんだ。ある晩、少女は両手を目蓋の上に組んで、片膝を立てて、その上にもう片方の足を乗せて、毛布の中で横になっていたんだ。そうするとほら、四肢と毛布によって、一つの立方体的空間が出来るのが分かるだろう?暑い満月の晩でね、寝付くには少うし時間がいる。少女は長い事、半分微睡みながらジッとしていた。するとどうだろう、その立方体的空間で黒猫の結婚式が執り行われているではないか。少女の意識は毛布の天幕からそれを俯瞰している。式は順調に進行し、教会の鐘が四肢と毛布の天幕を揺らす。そして少女はその何とも奇妙な場所に落っこちた。白い教会、白いドレス、ブーケの薔薇の赤だけが目の覚める様な有彩色でね、少女を除く皆が皆黒猫だった。鐘が再び鳴り響き、花嫁がブーケを高く投げあげる。それは少女の腕に落ちた。三度目に鐘が鳴り響き、少女は微睡みから覚めた。そしてどうなったかって?少女に初潮が来たのさ。」
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